私は書記係

「雨引の里と彫刻」が市や町の主催ではなく、作家の自主運営による展覧会であることは広く知られるようになりました。参加作家が実行委員となり、各係として実務を担うのです。私の担当は書記係。毎月の会議の時に、議事内容を記録して議事録を作成する係です。「毎回大変だね」とよく言われますが、実は書記の仕事は結構面白い。議論が白熱すると早口になることも多いので書き留めるのは大変ですが、発言内容はもちろん言葉の選び方や声のトーン等、各作家の持ち味が出ていて興味深い。理路整然とはっきり意見を述べる人、迷いながらも一生懸命言葉を探す人、その様子は各々の作品につながります。
 会議翌日には、内容を整理して議事録を作成します。全体会議では全員が納得いくまで話し合うことを大切にしているので、決定事項だけでなく、各々の立場を偏りなく記すよう努力していますが、自己主張の強い作家が毎回40名前後参加しているのですから、その議事録をまとめるのは、なかなか骨の折れる作業です。ですが、こうした作業に毎回取り組むことで、雨引の抱える問題やそれに対する各作家の考え方等、雨引の現在を客観的に捉えることができます。私にとっても自分と雨引との関わりを問い直す、ひいては美術や彫刻について考えを深める良い時間となるのです。
 書記の他にも、カタログ係・サイン係・懇親会係等々、係の仕事は多岐にわたり、参加作家は各々の仕事に責任を持つ。今では「雨引方式」と呼ばれることもありますが、最初から今のスタイルができていたわけではありません。第3回展から参加していますが、当時も「作家自らが運営する展覧会」という大前提はあったものの、全員が係を分担していたわけではなかったし、一部作家に仕事が集中し問題となったこともありました。また次第に参加人数が増えたことで、実務の大変さは増す一方、展覧会への関わり方に温度差が生まれる等、様々な問題が生じてきました。今の方式は、こうした問題を乗り越えて、自分たちの展覧会だという自覚を高めるための、試行錯誤の結果なのです。もちろん今の方式が完成形ではなく、今後も改善されていくであろうことは言うまでもありません。
 さて、「雨引の里と彫刻2013」が開幕しました。すでに多くのお客様を迎え、秋空の下、里山の風景と作品展示をご覧頂いています。展覧会開催中は書記係の仕事もひと休み・・・というわけにはいきません。会期中も何かと起きるわけで、必要があれば全体会議を開いて協議し、書記は記録を取る。この地道な作業が次の展覧会に活かされることを願っています。

参加作家 山上れい