あいさつ

photograph SAITO Sadamu


田園風景の広がる茨城県桜川市は日本有数の石の産地でもあり石材業の盛んな地域ですが、この地に仕事場を構える数名の石彫家達によって1996年、「雨引の里と彫刻」は始まりました。参加作家が地元の協力を得ながら自主運営し、継続してきた彫刻展であり、すでに15年の実績を持っています。近年、地域の活性化の為に多くのアートイベントが開催される中で、作家の地道な活動が人々の中で序々に理解され、さらに地域の活性化への一端につながった希有な例でもあり、彫刻家の純粋な表現活動と社会との関わりを考える上でも示唆に富む展覧会といえます。
この展覧会も今回で8回目の開催となり、参加作家42名の様々な素材や表現の作品が、年初めの1月から3月の春の訪れを感じるまでの約3ヶ月間、里山や集落などに、設置されました。
今まで、時候の穏やかな春、秋の開催が中心でしたが、今回、「冬のさなかに」と題し、あえて寒さの厳しい冬の季節を選びました。樹々は葉を落とし、はっきりとした稜線を露にする冬の大地。そこには、春、秋とは違ったもうひとつの美しさがあります。彩度を下げ、冷たく凛とした空気の中で42の作品はそれぞれにどのような身の置き場をみつけ、いかなる風景をつくりだすことができたでしょうか。
季節の空気を感じ、オリエンテーリングをするように点在する作品群と出会う。その中で発見する日本の里山の美しさ、そこで営まれる地場産業や人々の生活。これらは、展覧会に豊かさや彩りを与えてきました。
「雨引の里」に呼び起こされた作家たちは、里山の自然や地域の社会環境との接点の中で、表現を模索してきました。そして、年齢、経歴を問わず、お互いの作品に刺激され、この展覧会を自分自身の研鑽の場にもしてきました。
「雨引の里と彫刻」は、これからも、まさに冬の大地を一歩一歩、踏みしめるように、着実な歩みを見せていくことと思います。

2011年3月
雨引の里と彫刻 2011 実行委員会